The light stuff  あかるいひとたち

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献上した話、頂戴したお話

クリアリとんでも夜の街編

☆こちらは当サイト2周年を記念して、相互リンクさせて頂いております玩具のない王国のたみこ様より、頂戴いたしました。著作権はたみこ様にあります。この作品の無断転載・複写・直リンク及びそれに順ずる行為は一切禁止とさせて頂きますのでご了承ください。

★クリアリ現代パロです★


最終電車が走り去った時間でも尚、ネオンサインが輝く街があった。
この周辺の享楽が全て集まり、通称の方が有名であり、その名も『モンバーバラ』男も女もこの街に"夢"を求めてやってくる。
そして、このモンバーバラではあちらこちらで煌びやかな羽根を広げる数多の蝶達とその蝶に囚われた者達が毎夜、恋の駆け引きが行っているのであった。
それは古くからあるクラブ『素来夢』にも言える。

重たい木の扉が開かれると、和服姿の女性がにこやかな態度で客を迎える。
「あら、今日はクリフトさん一人?」
クリフトは小さなステージにまだ明かりがともっていないのを見ると、一息ついた。どうやら間に合ったらしい。そして手にした大きな赤い薔薇の花束をママに渡しながら答えた。
「ええ、社長は後から来ます。私の方は社長が来るまでの代役です。モンバーバラの舞姫のステージを見てこいとのご命令でして」
「ありがとう、マーニャも喜ぶわ。」
今日は踊り子マーニャのステージが行われる。マーニャは妖艶でありながら、さばさばした性格の芸能人で、裏表のない人柄が大衆に受け入れられており、ゴールデンタイムには必ずどこかのチャンネルで彼女を見る事ができるぐらい人気である。彼女が踊るにはこの店のステージは小さすぎるのだが、それには理由があり、彼女がかつて売れない時代に働いてた店であり、両親不在の彼女はかなり世話になっていたという事だった。そこでマーニャの方も芸能界二周年を記念してこの店で踊る事に決めたのである。
マーニャの踊りを見たい客ですぐにトラブルにならないようにシークレットライブとして、事前に招待状を送った客しか入店できないようになっていた。

招待状には砕けた感じで「遊びに来てね」と書かれていた。恐らく直筆だと思われる。
数年前に接客でこのクラブ『素来夢』に来て、マーニャの踊りに魅せられた社長はそれ以来良く利用し、その社長の知人が芸能プロダクション『パノン』の経営者だった事から彼女の芸能生活が始まったのは知っていた。だから限られた人数の中に社長が入っていた事に何の疑問もなかった。
うきうきとこの日を楽しみにしていた社長だったが、生憎外せない予定が入ったため遅れてくることとなり、その代理としてクリフトが行く事になったのである。
クリフトといえば社長秘書という事で何度か店に来店した事はあるが、もっぱら入口までの送迎の為だけであった。、待機中は車内で仕事に専念しており、こういった席に着くことは無かった。だからこういう時に指名する者もおらず、慣れない雰囲気にどうしたものかと居心地の悪さを感じる。通常ならば待機の女性もいるが、今日は特別であり、招待されている客層も上客ばかりなので席に着いた女性は馴染の客が来るとすぐに指名が入る為、隣の席が入れ代わり立ち代わりしている。そして、丁度隣に座っていた女性も指名され席を離れていったところであった。

「折角来ていただいたのに落ち着きのない事でごめんなさいね。今日はどうしても外せない方ばかりなので、気を悪くされていないといいのですけど」
ママがそっとクリフトの相手が定着しない事について詫びるとクリフトもほっとした様に答えた。
「いえ、むしろ私はこのような席に座るのも落ち着かないくらいなので困っていたぐらいです。いっそ一人の方が落ち着くぐらいですので、少しほっとしているというか」
「まぁ、そんな事おっしゃらないで下さいな。クリフトさんが社長をお迎えに来る時はいつも寄って行ってくれたらいいのに皆残念がっておりますのよ。今日でなければ逆に誰が座るかでもめていたかもしれませんわ」
そう言いながらママが店の隅の方を見るとカーテンの影に隠れる様に女性が一人立っていた。
ワンピースから覗く手足は長く、スタイルも良い。顔は完全に隠れてしまっている為、席に着くようにとママが視線を送っているのにも気づいていないようで、クリフトは後で怒られるんじゃないかと他人事ながら心配してしまう。
ママの方も困ったようにため息をつくと、視線の送り先を黒服のスタッフに変えた。黒服の男は了解したように移動した。
「あの子、亜里菜っていうの。この前入ったばかりで、まだまだこれからで危なっかしいけど、その分まだ染まってもいないから、こういうのが苦手なクリフトさんも過ごしやすいかも」
亜里菜と言う源氏名と背格好や何やらでクリフトはある人を思い出したが、とてもじゃないけどこのような店にいる人ではない為、一瞬浮かんだ幻想を振り払った。
黒服の男が亜里菜を連れてくる。おずおずと言えばまだ良いが、しぶしぶと言う風に来た亜里菜は俯いたままでクリフトの顔を見ようともしない。何とも言えない雰囲気を消すようにママは務めて明るく亜里菜の肩をぽんと叩いて紹介した。
「こちらは『サント・ハイム社』の社長の秘書をされているクリフトさんよ。失礼の無いようにね」
ママはウィンクをすると、また新たな客へと挨拶に向かった。
その場に立ったまま中々座ろうとしない亜里菜に、黒服の男が後ろから諭すとようやく座った。
座るには座ったが、クリフトから随分距離を開け、しかも体を半分逸らす様に座っている。密着したいとか思う事などないが、あまりな反応だと思う。初見でそんなに近寄りがたいなんてよっぽど何かしてしまってるのかと自分の服装など改めて見てみるが、特に問題もなさそうだった。
気まずい空気に耐えられなくなって、グラスに口をつけるが、女の方は全く無反応だし口も利かない。
社長、早く来てくださいよーと心の中で叫ぶクリフトは、この後すぐ、思っていた事と正反対の行動をとる事になるのだが、この時は全く思っていなかった。

思わずぐっと飲み干した酒を足すため、水割りを自分で作ろうとするが、亜里菜は一切しようとしない。
いくら初めてだとは言え、何なんだ一体と思う。心当たりは全くないが同贔屓目に見てもすかれていない事分かったので、下手に作ってもらうよりは自分で作った方が気が楽なのでそのまま作る。そして亜里菜の方もよっぽど席を立ちたいのか、まだ氷が十分あるのに足しに行く為、明後日を向いたまま氷入れに手を伸ばす。
その際、ピックがボトルにひっかかったようで、ガタンと音をたてて倒れ、側にあったグラスは床に落ち、割れた。
クリフトはどくどくと流れるウィスキーを元にもどし、ガラスの破片を拾おうとしている亜里菜を止め、大丈夫ですかと声をかけたまま固まった。
「……ア、アリーナ様……」
亜里菜は再び俯いて顔を隠すと化粧室へと駆けて行った。
思考が停止してしまったクリフトは黒服たちが片づけ始めるのをどこか上の空で見ていた。
亜里菜の紹介を受けた時、思い浮かんだのも当然と言える。化粧してはいたが紛れもなく社長令嬢だった。
しかし、アリーナはスポーツ特待で大学へ進学しており、早朝練習に加え夜遅くまで練習が有る為、寮生活を送っている筈で、こんな所にいる筈がないのだ。
年明けに久しぶりに社長宅で会ったアリーナは化粧っけもなく、好きな武術の事を楽しそうに話していた。女子大生というよりは女子高生のままの雰囲気でさっきのように濃いめの化粧をし、露骨ではないものの体のラインが出るドレスを着ているはずなんてない。

そうだ、自分の見間違いだ!
お嬢様に違いないと確信しながらも、どこかで否定して欲しくて、クリフトはそのまま席をはずすとアリーナの携帯に電話をかける。
コール音を焦れる思いで数えていく。
プルルルル、プルルルル------
繋がった!
「ア、アリーナ様、今どちらに!」
焦る様に聞くとプツっと切れた。
すぐにリダイヤルをする。
そして近くから声が聞こえた。
「クリフト……ここにいるわ」
亜里菜がそこに立っていた。
「嘘でしょ。本当にお嬢様なら今頃寮にいるはずです」
マスカラで長くなった睫毛が瞳を少し隠す。
唇は必要以上に紅く感じられる。
「寮は抜け出してきたわ」
「そんな」
「簡単なことよ。寮の壁に抜け穴があって、一度帰寮してから外に出てるので、誰もわからないわ」
「穴って……もしかしてお嬢様が?」
思い当たる節が多すぎて確認するとアリーナはあっさりと頷いた。
「壁が脆くなってたみたい。丁度良いからそのままにしてるの」
「あとで寮母さんには話しておきます。……で、お嬢様はこんな所で何をやっているのですか!」
「何って……仕事しているの」
「貴女はここがどういうお店か分かっていて働いているのですが」
声を荒げるクリフトはそのままアリーナの肩を掴み、ゆさぶる。
「分かってるわよ」
睨むように答えたアリーナにクリフトの眉間の皺が深くなる。
「いいえ、分かっていません。理由は後で聞きます。取りあえず、今すぐ帰りますよ」
「嫌よ」
連れて帰ろうとするクリフトの手をアリーナが振り払った。
「何故です?」
「ここで働くって決めたからよ」
きっと見据えるアリーナにクリフトは詰め寄った。
「働く場所は他にもたくさんあるでしょう?なんでよりによって……」
クリフトは今度こそアリーナの腕を掴む。
「離してよ」
「嫌です」
しばらく睨み合っていると、気だるげだがどこか艶やかな声が聞こえた。
「はいはい、店の外での痴話げんかなら止めてよねー」
声に気づいた二人が振り返ると、今夜の主役であるマーニャが壁にもたれかけるようにして立っていた。
マーニャがそのまま二人の側までくるとサングラスを外す。
「新しい子ね?煩い事いいたかないけど、自分のトラブルをお店に持ってくるのはルール違反だからね」
「はい。すみません」
アリーナがしおれた様に頷くとマーニャはクリフトに向き直りスーツの社章を弄んぶ。
「あなた、サント・ハイム社の人ね。社長は元気?」
「はい、クリフトと申します。社長は今夜のショーをとても楽しみにしておりましたが、急務でこれなくなった為、社長が来られるまで私が代理で来させてもらいました」
一息に言うべきことをすべて伝えたクリフトに、マーニャは身体を寄せてくる。
「そう、あなたがクリフトちゃんね。優秀な秘書がいるって話は私も聞いたことがあるわ。おじさんかと思ってたけど若くていい男じゃない」
クリフトは目と鼻の位置ぐらいの距離にマーニャが寄って来たので、たじろいで一歩下がる。
「あはは、堅物だって話はホントなんだ」
お腹を抱えて笑い出したマーニャはひとしきり笑った後、長い指を伸ばしてクリフトの額を指先ではじく。
あっけにとられたクリフトにマーニャが失礼と言って扉に手をかけた。
「お世話になった社長に免じて、教えてあげるわ。お嬢様が誰にも内緒でこういうところで働く時ってのは、何か事情があって腹括った時って決まってるのよ。それを無理に連れて帰るのは野暮な男がする事よ。だから、細かい話は後にして、マーニャちゃんの踊りでも見ながら、他の客の邪魔にならないように話しあって頂戴」
そういうとマーニャはあまやかな香水の香りを残して店に入って行った。
苦虫を噛み潰した様な顔をしていたクリフトだったが観念したようにため息をついた。
「取りあえず、はいりましょう。マーニャさんの言うとおり、ここでは店に迷惑をかけてしまいます」
そういって、アリーナの背に手を添え促した。
「嘘……クリフトだけじゃなく、お父様も来るの?」
おぼつかない足取りでアリーナが蒼白になりながらつぶやいていた。

店に戻ると、誰もがマーニャに注目していたので二人が戻って来た事に注意を払う者もなく、邪魔されずに話ができそうだった。
働いている事がばれてしまったアリーナはもう不自然に離れる事もなくクリフトの隣に座り、慣れない手つきで酒を作りはじめる。
クリフトはそれを見ながら、その手をつかんで今すぐにでもやめさせたいと思っているのだが、客がホステスに酒を作ってもらうのを拒否するのもおかしいので、しかめっ面でその様子をみている。そして、そんなクリフトの様子が更にアリーナの手つきを悪くし、さっきからマドラーがカツンカツンとグラスを勢いよく叩いている。
クリフトは止めたくてもそれが叶わない行き場の無くなった手を胸ポケットに忍ばせると、煙草を探り当て一本取り出して咥える。
それに気づいたアリーナが驚きの声を上げる。
「クリフトも煙草吸うんだ」
言ってからクリフトがライターを探している事に気づき、アリーナが慌てて手持ちのライターで火をつける。
アリーナの手元にクリフトが顔を近づけると煙草の先に火が移り、ちろちろと赤い面積を増やした。
紫煙がゆっくりと吐き出されるとクリフトはアリーナの方を見て、自嘲気味に笑った。
「ええ、滅多に吸う事はありません。ライターがすぐに出ないぐらいです」
クリフトの左手から、細長い紫煙がゆっくりと立ち上る。
「まさか、貴女に火をつけてもらう事が来るとは思ってもみなかったです」
こちらを見ないクリフトに何か言わなきゃと思いながらも、アリーナは上手い言葉がでない。
「でも、私もまさかクリフトにすることになるなんて思わなかったな」
冗談めかして言った台詞は逆効果だったみたいで、クリフトは冷ややかな目をして返した。
「全く、冗談じゃありません。私は貴女にこんな事してもらいたくありませんでした」
口調は穏やかだが、きっぱりと言い放つクリフトにアリーナが黙りこむと、クリフトが謝る。
「すみません、私もまだ冷静になれなくて」
そう言ってクリフトが再び煙草を口にする。
途端、照明が一気に暗くなり、ショーの始まりだった。

熱心に見ている周囲に気遣って小さな声で話し合う。
「で、いつから働いているのですか?」
アリーナは指を一本立てる。
「一か月前ですか?」
「ううん。一週間」
その答えを聞いてクリフトは一気に安堵する。
「そうですか、よかった」
「やめるつもりなんてないわよ」
「どうしてです?そんなにお金が必要ですか?」
「必要よ」
「何か欲しい物でもあるのですか?それとも何か貴重な物を叩き割ってしまったとか?」
「違うわ」
「じゃあ何です?言って下さったらいくらでも社長に口添えはさせてもらいますし、社長に言えない事でもできる限り協力致しますから」
「駄目よ。言ったところでお父様がお金を出してくれるとも思えないし、クリフトも協力してくれるとは思えないもの」
クリフトが目を細める。
「聞いてもいないのに、どうして協力しないなんて言えるんですか」
「だって、昔から私がしたい事には反対してきたじゃない。お父様も爺やもクリフトも、みんな皆反対してたから、こうして働いてるんじゃない」
声が大きくなったアリーナにクリフトは人差し指を当て、それから水を勧める。
冷たい水を一口飲んだアリーナはごめんと言って黙り込む。
「いえ、今日はお互いらしくないですね。まぁ、こんな所で会ったんだから当たり前でしょうけど。私も社長も、理由もなしに、お嬢様のする事に反対などしませんよ」
黙ってうつむいたアリーナにクリフトは体を向けると、アリーナの膝の上にはぎゅっと握られた両手がある。
悔しそうにしながら、叱られるのを待つその姿は昔から変わらない。
クリフトは時間を確認する。
「せめて何故働いているのかを私にだけでも話してみませんか?今後については約束できませんが、少なくともこの場で社長と鉢合わせする事を避けるよう協力させてもらいますよ」
アリーナがはっとしたように顔をあげる。
「それとも、社長がこられるまで私と問答しますか?」
クリフトをじっと見つめた後、アリーナはわかったわと答えた。
それを受けてクリフトは席を立ってママに何か話すと、携帯電話を取り出してそのまま店を出た。
アリーナが気になってみていると、ママが空いた席に腰かける。
「クリフトさんが亜里奈ちゃんの事を大変気に入ったそうよ。できればアフターしたいのだけどって言ってこられたのだけど、どうする?本来なら、亜里奈ちゃんとお客さんで決めればいい事なんだけど、勤務時間中だから確認にこられたの。しっかりした所にお勤めの方で良い方だから、悪い話ではないと思うわ」
「ええ、でもお仕事は大丈夫でしょうか」
「ふふ、実はねその時間分も支払ってくれるそうよ」
「えっ」
驚くアリーナにママはにっこりと笑う。
「今日はもう誰の席にもついてほしくないんですって。いつ誘っても席に着く事の無い方なのだけど、亜里菜ちゃん目当てで通ってくれるようになるなら嬉しいわね。今度またどうやって射止めたのか聞かせてもらおうかしら」
ふふと上品に笑うママにアリーナは曖昧に答えた。
その後、さっきの接客については厳禁と言われるが、こういう運びになった為それほど怒られることは無かった。
ほどなくしてクリフトは戻ってくる。言葉を切り出すのに戸惑いを隠すように煙草を取り出した。
煙草をくゆらせるクリフトの横顔を見ていると、さっきママから聞いた誰の席にもついてほしくないんですってと言う言葉がよみがえった。
アリーナが抜けやすいように、そしてあとで詳しく聞き出すつもりだと分かっているが、何故だかドキドキしてしまう。
きっといつものクリフトじゃないみたいだからだわ。
そう結論付けたアリーナにクリフトつけたばかりの長い煙草の火を消した。
「ママから聞きましたか?本当は終わってからじゃないとダメなのですが、時間もないのでちょっと強引ですが、切り上げてアフターさせてもらいますね」
「お父様が来るまで待って無くていいの?」
「私は残ってます。社長には適当に言ってから私も出ます。社長の帰りの手配も済ませてますので私も今日はこれであがりますから心配しなくても大丈夫です。貴女は念の為、裏から出て……四辻の所の『モモンジャ』という喫茶店で待ち合わせしましょう」
そういうとクリフトはアリーナを立たせた。

***

『モモンジャ』は初老のマスターが一人でやっている喫茶店で、10人並びのカウンターと机が3つしかなく、場所代のかかるこの地でよくやっていけるなと思うような店だった。客も色々で、これから出勤という派手な衣装に包んだ女性客もいれば、一目見ただけで高級品だとわかるスーツに身を包んだ男性客もいたりする。
窓の外では忙しく歩くサラリーマンにそれを呼び止める客引きの姿や。ホストがまだ未成年ではないかと思われる少女たちに声をかけている姿が見える。
そんな、景色とは別世界の様に、喫茶店の中はゆっくりとした時間が流れている。
サイフォンがこぽこぽという音を立て、そしてカップに注ぐ度、珈琲の香りが小さな店いっぱいに広がる。アリーナも頼んでいたカフェ・オ・レが届くと一口、二口、口にしただけで、今はカップを持ってその暖かさを感じている。
働き出したのは一週間前、慣れないことにへまばっかりで、たまに呆れられたりもしたが、皆親切だった。
どの様な仕事か分かっているのですかというクリフトに分かっていると答えたけど、正直一対一で席に着いたのは実は今日がというかクリフトがはじめてだった。
今まではヘルプばかりだったのだけど、事前にママから今日は人手が足りないかもしれないので、もしかしたら一人で付いてもらうかもしれないと言われて緊張していたのだ。
そんな時にクリフトが入って来て驚いたのだ。
源氏名なんかも、最初分からずそのまま名前を言ってしまったので、今は適当に字をあてて『亜里菜』としていた。だけど、待機している間に名前が出るたびばれないものかとひやひやしていた。
必死で目立たぬように隠れていたけど、無駄だった。
不自然だと失礼だとののしられて良いから極力離れて顔を見えないようにし、早く嫌われて、誰かと代わるように言ってもらおうと思った。
だけど、慣れてない子という事で気遣ってくれたのか、交代の言葉もないまま、結局見つかってしまった。
でも早く見つかってしまって良かったのかもしれない。
アリーナは少しぬるくなったカフェ・オ・レをすする。
職務に忠実なクリフトが父を誤魔化してまで逃がしてくれたのだ。協力いたしますからと言った言葉は嘘ではないのかもしれない。
もちろん、それは勝手な希望である事は承知していた。
クリフトは幼い時に父に才能をかわれ引き取られた小学校から中学校にあがるまではずっと同じ屋敷で住み、本当の兄妹の様に良く遊んでもらっていた。
そして、アリーナが困ったことがあればいつだって一番に味方してくれていたのがクリフトだった。
どこかで聞いたことのあるジャズが終わり、懐かしいスローテンポのバラード曲がかかる頃にはカップが空に近く、アリーナは片肘をついて物思いにふけっていた。

「お待たせしました」
アリーナの前にクリフトが腰掛けると、慣れたようにマスターに注文を通した。
「ちゃんと、待っててくれたんですね」
「当たり前よ。約束したんだから」
アリーナがそう言うとクリフトは少し笑った。
しかし、その後すぐに堅い顔つきになって本題に入った。
「では、約束通り聞かせてくれませんか?貴女が働いていた訳を」
アリーナはクリフトの様子を伺いながら口を開く
「実はアメリカに行こうと思って」
「なんで、急にアメリカなんですか?旅行……とかではないですよね」
先がみえないクリフトが怪訝な顔で聞き返す。
「それが9月にトーナメントが始まるので、どうしても参加したくて」
歯切れの悪いアリーナにクリフトは怪訝になった。
「何のトーナメントです?」
「えっと……UG無差別異種格闘技トーナメントよ」
「UG?何の略ですか?初めて聞きますね。でも、無差別異種格闘なら今までもやったことあるからお嬢様がきちんと説明されれば社長も頭から反対しないと思いますが」
「そうね。ふつうなら私もちゃんとお父様に話してエントリーしていたわね」
「……つまり、UGと言うのは正式な大会名ではないという事ですね」
クリフトの言葉にアリーナが頷く。
「UnderGraoundの事よ」
「非公式ですか?非合法ですか?どちらにしても公にできない大会ではないということですか」
「うん。ルール無用。時間制限もレフェリー、セコンドストップも無いわ。ただ降参か、戦闘不能になるまでよ」
「そんな危険なものがまだ現在でも行われているとは……」
眉間の皺が深くなったクリフトにまるで当たり前のようにアリーナは言う。
「以前はそこまで危険じゃなかったのよ。でも、去年の優勝者の「デスピサロ」って言う男がとんでもなかったらしいわ。圧倒的な強さでまるで殺戮の様だったって」
クリフトの口元がひくりとする。
「まさか、そのデスピサロと対戦しようと思ってるんじゃないでしょうね」
「その、まさかよ」
「お止め下さい。わざわざそんな危ない相手に立ち向かわなくてもいいじゃないですか」
強い口調のクリフトにアリーナがむっとする。
「私と同じ流派のサイモンって覚えてる?」
「ええ、国際大会で良く見かける方ですね。特に防御に秀でている」
クリフトが思い出す様に言うと、アリーナが頷いた。
「そうよ。サイモンの防御は私でも中々崩すことができないの」
「そして、そのサイモンを倒したのがデスピサロと言うわけですか」
男女混合無差別格闘部門において東のサイモン、西のアリーナと言われ、長年ライバル関係だったのだ。そのサイモンに勝ったという事でアリーナの闘志に火をつけたのだろう。だけど、その為にわざわざ危険な大会を選ばなくてもいいではないかとクリフトは思う。
「それだけ強いのでしたら別の大会でも相まみえる機会もあるのでは?」
「駄目なのよ!デスピサロについて私も調べられる事は調べたのだけど、どうも正式な大会には興味がないみたい。最初に出場してから色んなスポンサーが付こうとしたらしいけど、全部断ったって。あくまでUGに拘っているみたいなの」
「なるほど、だからと言って公に出てこれないような相手とわざわざ戦わなくても、このまま鍛練を積んでいけばお嬢様だって」
クリフトも食い下がる。
「それじゃあ遅いのよ!サイモンの負けだけど試合開始からわずか5秒。心臓を一突きだったって聞いているわ」
「なっ!」
驚愕するクリフトにアリーナは拳を握りしめる。
「奇跡的に一命は取り留めたようだけど、もうサイモンと手合せする事はできなくなったわ。この前の借り……私、まだ返していないのに」
アリーナは握りしめた拳を空いた手にぶつけるとぱんと小気味良い音が響いた。
「お嬢様がその大会に拘るわけが分かりました」
「それじゃあ賛成してくれる?」
通常の無差別、異種格闘だけでも、危険だと思っていたのに、その上今度の相手は残虐、かつ非道とあっては答えは自ずと決まる。
「それは……致しかねます」
「何よ、できる限る協力しますなんて言っておいて、やっぱり反対なんじゃない。嘘つき」
「場合によります。こんな事じゃなければ私も反対なんてしませんよ。他の事なら」
クリフトがそこまで言った所で、アリーナがガタンと立ち上がる。
「だから言えなかったんじゃない!だから……だから一人で行く資金稼ぎのために、あのお店で働いてたんじゃない。クリフトの馬鹿」
そういって思わず大声で叫んだアリーナがそのまま店を駆けだすと、クリフトも紙幣をレジに置いて後を追いかける。
「待ってください。お嬢様」
しかし、人ごみをぬって走るアリーナを見との差は開くばかりで曲がり角で見失ったクリフトはくそっと毒づいた。

涙目ながらに走るアリーナはクリフトを巻いたのを確認すると、走るのを止めて歩き出した。
「クリフトの馬鹿」
アリーナは思いっきり足元に転がっている空き缶を蹴ると、赤い缶が音を立てて跳ね上がった。
どこかでクリフトだけは味方になってくれると思っていた。
尤も勝手に味方だと期待して、裏切られた気分になって落ち込んでいることは百も承知だった。
空き缶がころころを転がって行くのを見てため息を一つついた。
何でこんなに悲しいんだろ。
アリーナは力なく、落書きだらけの手すりに腰をかける。
明日から、どこで働こう。
工事現場などの肉体労働も同じぐらい歩合は良いが、まとまった期間働くとなると、どうしても訓練に支障がでてしまう。そんなわけで夜の仕事にしたのだけど、今のお店はクリフトが根回ししているだろうし、同じような他の店で働いたとしてもすぐに見つかるに違いない。
アリーナが途方に暮れたようにネオンを見あげていると、肩が叩かれる。
「ねぇねぇ、君ひとり?」
馴れ馴れしく声をかけてきたのはホスト風の二人連れで、振り返ったアリーナを見てもうひとりが可愛いねと言って横に並ぶ。
「この辺り初めてなら、俺らが案内してあげるよ」
褒め言葉を混ぜながら男たちが言葉巧みに誘いかける。
だが、アリーナが全く反応しないので、最後には「ちっ、お高く留まりやがって」と罵ると去って行った。
ようやく離れてくれたと思ったのもつかの間で、また別の男が声をかけてくる。
同じようにそっけない態度でやり過ごしていたが今度の男はなかなか離れてくれなかった。
必要以上に近づいて来る男の息がかかり、アリーナは思わず顔を顰めると、男の態度が豹変した。
「何その態度。さっきから紳士的に対応してやってるって言うのによ」
男の手が伸びてくるのをひらりと交わすと男がむきになる。
「この女。いい気になりやがって」
もう一度手を出してくるようなら軽く捻ってやろう、しかし、アリーナの後ろから何者かが男の腕を掴みあげると、情けない悲鳴が聞こえてきた。
振り返った先にいるのはクリフトで、アリーナを庇うように立つ。
「痛いって言ってんだろうが」
男がクリフトに食って掛かると、クリフトは手を離した。
「これは失礼。何かこちらの女性に手を上げようとしているように見えたので……」
男は赤くなった手首を押さえると、クリフトとアリーナを見比べる。
「どのような理由であれ、このような往来で女性に手を出すのはいかがな物かと。何か正当な理由でもありましたら、私の方が代わりに伺います」
平然と述べるクリフトに男の方は口の中でもごもごと断るとそそくさと去って行った。逃げた男を見送ったクリフトが「さて……と」と言ってアリーナの方を振り返った。
「何をやっているんですか」
苦虫を噛み潰した様な顔でクリフトが言うとアリーナはそっぽ向いた。
「でも、クリフトが来なくったって私一人でなんとかしたわよ」
「店に迷惑をかける事になるのかもしれないのに?」
「そんなつもりじゃ!」
「なくても、そういうものなんです。貴女は確かに強いです。火の粉を払っただけかもしれませんが、もし怪我させて変に恨みでも持たれたらどうなるんですか。相手がホストならそういうトラブルとして店に持ち込まれる可能性だってあるわけです」
冷ややかに言うクリフトにアリーナは言葉を継げなくなる。
黙り込んだアリーナにクリフトは大きく息を吐いた。
「とにかくまだ話は終わったわけではありません。さっきは私の言い方にも問題あったかもしれません。ですから、どうか逃げ出さないで下さい」
クリフトは頭を深く下げると、アリーナも意地を張るわけにはいかなかった。
「分かったわ。それと……さっきはありがとう」

そのまま二人はモンバーバラの外れまで歩く。さすがにここまで来ると人通りがまばらになってきた。
自動販売機を見つけたクリフトはお金を入れるとアリーナに選ばせた。アリーナは数ある中からピーチフレイバーの水を選ぶ。
「相変わらず貴女は甘い物が好きですね」
そう言うクリフトはブラックのボタンを押す。
「これでも甘い物は減ったのよ」
アリーナは少し口をとがらせた。
「そうですか?」
「うん、そうよ。だって今までだったらこっちのジュースとか選んでたわよ」
何故だか得意そうに言うアリーナにクリフトは確かにと頷いた。
「でも、もっと砂糖やミルクは減らすべきかもしれませんね。……これからも仕事を続けるのなら」
アリーナは驚いてクリフトに向き直る。
「もれって、もしかして……」
「正直言うと今も気持ちは変わっておりません。しかし、ここで反対して無理やり仕事を辞めさせたとしても別の所を探すつもりでしょう?」
アリーナが頷くとクリフトがため息をつきながら続けた。
「同じ心配をするにしても貴女がどこで何をしているか分からないよりは、まだ分かっている方がいい」
「ありがとう!クリフト」
「まだ協力するとは言っておりません」
抱き着きそうな勢いのアリーナをクリフトが押しとどめる。
「無駄だと思いますが、最後の確認をさせてください」
「何よ」
「やっぱり大会の事を社長にお話ししませんか?すぐには無理ですが、いずれ協力してもらえたら、夜こうして働く時間を全部鍛練に当てる事ができます」
アリーナは首を振った。
「それには時間がかかりすぎるわ。その時にはUG大会自体無くなってるかもしれないもの」
眉間に皺を寄せたクリフトにアリーナは説明する。
「ルール無用の何でも有りだけどね。前回が凄惨過ぎたせいか、内部者からも酷すぎるって声も上がってるの。一応、9月は行われる事になったけど、その次があるかどうか分からない。だから、どうしても9月には行きたいのよ」
「止めても無駄という事ですね」
「そうよ」
きっぱりと言い放つアリーナの前にクリフトが立つ。
「では、賭けをしましょう」
「何を賭けるの?」
「貴女のアメリカ行きです。もし貴女が勝てば、私はこの事を社長に黙っておきましょう。そして、向こうにわたって連絡の取れない間のフォローもさせていただくというのはどうでしょう?」
「クリフトが勝ったら?」
「私が勝てば、今度の試合の事は一切諦めていただく」
「方法は?」
「そうですね……。貴女が働く間、私以外の男の席に着かないという事でどうですか?」
「貴女の勤務の間は私も店に行きます。私が何かの事情で来れない場合は私の負け。そのかわり私が店に来た時、貴女が私の席に就けないと貴女の負け、と言うのはどうでしょう?お互いどんな事情があったとしてもです」
「もし、クリフトが来ることでお父様にバレた時は?」
「その時は私の負けです。そして、ペナルティとして社長の事も私がなんとか説得して、貴女が大会に参加できるように致します。逆に勤務時間に偽りがあった場合などは例え貴女が席についていたとしても負けという事です」
誰が聞いてもアリーナに随分有利なルールだ。アリーナも確認するように聞いた。
「分かったわ。でも、それでいいの?」
クリフトはそのままアリーナを見つめながらはっきりと構わないと言った。
「絶対負けませんから。例え何があっても貴女の隣には私が座ります。だから、期日が来るまで通いとおせたあかつきには必ずお約束をお守りください」
見つめてくる蒼色にアリーナは不意に言葉が詰まる。それでも
「私だって負けないんだから」
とクリフトに対抗するような宣言をして二人は別れた。

***

部屋に帰ったアリーナはドレスを着たままベッドに寝転んだ。
目を閉じてみると、ここ最近の出来事は、今でもどこか現実味を帯びていない気がする。
机に置いた鞄の中からメールの着信音が流れる。
内容を確認して、スケジュールを見ながら打ち込んだ。
返信先はクリフトで、とりあえず今週の予定を送った。
家族以外で最も近しい人なのに、用がある場合は大抵電話ばかりだったので、不思議とメールのやり取りはこれが初めてだった。
机の上に書き込んである小さなカレンダーを眺めた後、アリーナはカレンダーを倒した。
その時、さっきのやり取りを思い出した。
『例え何があっても貴女の隣には私が座ります』
胸がきゅっと締付けられる感覚を、あれは単なるかけなのだからとアリーナは必至で否定する。
しかし否定しようと思えば思うほど、今日初めて見たクリフトの顔を思い出してしまう。
グラスを片手に煽るように呑む姿も、暗がりの中、煙草の火が端正な横顔を浮かび上がらせていた。
話してみたらいつものクリフトだったけど、それらはアリーナが今まで全く知らないクリフトで、身近なお兄さんの姿ではなかった。
何故か高鳴っていく鼓動は余計な事も思い出す。
『とりあえずどうやって射止めたのか聞かせてもらおうかしら』
ママの言葉に明日出勤したら、なんて言おうか考える。
否定しても、明日からずっと指名を受けるのだ。
なんだろう、この関係。
---客とホステスの関係……で、いいのよね---
間違えてはいないけど、どこか微妙にずれている感じがする。

それでも、明日は出勤日。
とりあえず、着ていく服を選ぶためタンスを開けたアリーナは、今日の最悪だった接客を思い出し、明日からきちんとしなくっちゃと思った。
いくら賭けとはいえ、クリフトはお客様なのだと思う事にした。
そうすると、さっきまで妙に落ち着かなかった気持ちもすとんとおさまった気持ちになった。

まだ当人も気づいていない小さな恋の蕾がどのように育つか、
そして夜ごと会う二人の間がどう変わりゆくのか、

それはモンバーバラにあるクラブ「素来夢」で今後、綴られていくのであった。

fin?


いかがでしたでしょうか?私、正直これの続きが見たくて仕方がありません!ってことで最後にfin?と勝手に付けさせて頂きました。たみこ様、本当に、本当に楽しい作品をありがとうございました。
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