The light stuff  あかるいひとたち

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冒険中の話

風邪を引けば

ソアラが風邪をひいた。『鬼の撹乱』だ『何とかは風邪をひかない』はずだ、と首を傾げる一同を尻目に彼はあっという間に高熱を出し、もう4日間もこの状態が続いている。喉も痛めて食事も満足に摂れないために、さしものお子ちゃま勇者もベッドで大人しく横になっていた。

「ここまで熱が下がらないとは、やはり大したウィルスに好かれたようですね」
新しい氷嚢をソアラにあてながら、クリフトは呟いた。いつも宿でソアラと同室で、気心も知れている神官クリフトの両親は医者であり、その心得が十分にあった為に、看病は彼に任されていた。と言えば聞こえはいいが、何かと手のかかるソアラの面倒を大人達が体よく押し付けたというだけの話である。

「んあごどっ、げほっ、知るぐあよっ」(訳:んなこと知るかよ)
「ほら、無理に話さないで下さい。それ以上喉の炎症が進行すれば、喋れなくなりますよ」
そう言いながら、いっそ、そのほうが静かでいいかと思うクリフト。
ときおりゼイゼイ、ヒューヒューとかすれたような声にならない音までが漏れる唇から聞こえるソアラの発言は、はっきり言ってかなり不明瞭であった。それでも意志の疎通が出来るあたりは、さすがに何度も死線をかいくぐってきた親友同志の絆であろうか。

「っざげた、っぐほ、ごほえうぬぁ!」(訳:ふざけたこというなぃ!)
「あなたね、病人なんですからもう少し静かに出来ないんですか?それにやれ腹がへったの、退屈だの文句が多すぎます」
「づあー、ぐしょー。ごほほぉ、腹べってんに、ごほっ、飯くえぬぇーぬんでよぉ」(訳:だぁー、ちきしょー。腹減ってんのに飯が食えねえなんてよぉ)
「病気の時というのはそういうものです。というか何故この状態でも、食欲だけはあるのか不思議ですよね」
「へりゅのんばへりゅ、げほほっ。ぬぁ、ぞーいはうずすとぬぁおりて言うぼな、いっすおぼあれがにうずしてやりゅぐあぬぁ?」(訳:(腹)減るもんは減るっての。なぁ、そういやうつすと治るとかいうよな、いっそ誰かにうつしてやっかな?)
「もしも姫様にうつしたら、どうなるか・・・・・わかっていますよね?」
とたん目に剣呑な光を宿し、麗しく微笑むクリフト。相変わらず密かに(と思っているのは本人だけだが)想いを寄せるアリーナのことになると、優秀なはずの頭のネジは簡単にどこかに飛んでいってしまうらしい。

※ここからはもう面倒なので普通に書きます
「やめれ、マジになるな。ただのお茶目な冗談だっ!」
「ああ、勿論私にもうつさないでくださいね?もう姫様にご心配をおかけする訳にはまいりませんから」
「わかってんよ!俺だって死にたかねぇやい!」

ソアラの看病をクリフトがするとなったとき、クリフトの幼馴染でもあるアリーナはそれに難色を示し、ちょっとした騒動になった。何しろクリフトは体が丈夫な性質ではない、本来なら真冬に氷漬けになっても風邪もひかないソアラ(何気に酷い言われよう)に取り憑く病原菌などに、逆にクリフトが冒されでもしたら、また命に関わってしまうではないかとアリーナは主張して譲らなかった。そこには、例え病人であってもソアラなんぞに、好きな人を独占されてなるものか!という恋する乙女の複雑な気持ちが垣間見える。挙句、それくらいなら自分が看病をすると言い出すのだから、ソアラはこれに戦慄し、寝床からそれだけは勘弁してくれと涙まじりに訴える事態となった。

アリーナは昔からクリフトが大好きで、極度のヤキモチ焼きなのだ。そのジェラシーは、いかなる場合においてもあますことなく発揮されており、クリフトと一緒に行動することの多いソアラはそれはもう、幾度と無く、被害を受けてきている。看病にかこつけて、正直何をされるかわかったものじゃなかった。それにアリーナが直々に看病するというのを聞いたクリフトの顔は、こちらも天使のような悪魔の微笑みを全開にしてソアラに強烈なプレッシャーをかけまくったのだから、ソアラの恐怖のほどはおして図るべし。結局マーニャとミネア姉妹の説得で、アリーナが渋々ながら引き下がり事なきを得たのだが、熱が長引いているのは、たぶんこれも原因の一端であろう。

このようにお互いにあからさまに好意を見せまくっているにもかかわらず、片や天然、片や屈折というスキルをいかんなく発揮して、態ととも思えるような『すれ違いコント』を繰り返しているクリフトとアリーナ。いつまでこの状態が続くのか、と被害者筆頭であるソアラは一生懸命、二人の恋を成就させようとするのだが、生来の空気を読めない体質が仇となり、加害者となることもしばしばな彼の苦労は、未だ実を結んだ試しがない。

「何よ、楽しそうね」
「え、姫様?!」
「んげっ!!」
噂をすればなんとやら。いつものような言葉の応酬を繰り返していた彼らの側に、いつのまにかアリーナが腕を組んで立っていた。

「具合はどうなの?起きてるようなら何か食べられるかどうか、ミネアから聞いてきて欲しいって頼まれたんだけど」
その口調は平坦で、かなりご機嫌は斜めだった。それもそのはず、ソアラの超強力なウイルス感染を恐れたブライやクリフトによって、彼女はこの部屋への出入りを2日前から制限されてしまったのだ。
「飯なら何でも食う、はよくれ!!」
それには気がつかずに即答するソアラ。さすが食欲魔神。

「呆れた!そんな熱あるくせに食べる気だけは満々なのね」
「んだよ、食べなきゃ治るものも治らねぇとか、こいつが寝込んだときにはあれこれ心配するくせによ。俺への心配はないんかい」
「するわけ無いでしょ。どうでもいいから早く治りなさい!クリフトにこれ以上迷惑かけないでよね」
「お前、いくら何でもそれはねーだろよ!」
「何よっ!!ソアラなんかに私、絶対負けないんだからねっ!!」
「おい、一体それは何の話だぁぁ!!!!」

自由にクリフトと会えない苛立ちもあってか、支離滅裂なことを言いだして詰め寄るアリーナに、ソアラはまたか、と頭を抱える。ある事件をきっかけで彼女はソアラを恋敵と誤認してた時期がある。今でもどうやらそれが抜け切らないようで、たまにこうしてとんでもない発言が飛び出すのだ。そしてそれをいつも曲解するクリフトは、ソアラをそれはもう恐怖のどん底に陥れる。しかし、アリーナもソアラのあの鼻水と咳まじりの言語をこちらもいとも簡単に読み取っているあたりが凄い。だが、これはクリフトがその昔こういう状態に何度もなっていたため、そこからの慣れであろう。

「姫様。大丈夫ですよ。私は迷惑とは思っておりませんから」
と言いつつ、目だけは全然笑っていないクリフト。それはもう美しい微笑みをたたえる彼の背後のオーラは、地獄の門さながらの禍々しさであった。ソアラはそれにひぃ、と思わず体を縮こませた。自分は果たして生きて朝を迎えられるのだろうか、とソアラは思わず覚悟をする。

「もう、クリフトってば本当に優しいんだから」
振り向いてクリフトを見たアリーナの目には、さきほどまで纏った負のオーラは何処へやら、落ち着いた柔らかい微笑みを浮かべた秀麗な顔が映っている。相変わらずの変わり身の早さにソアラは内心、け!と悪態をついた。その顔に魅せられほんのりと頬を染めて、すこし拗ねたような口調になるアリーナ。
「いいえ。そんなことはありません。私はごく普通の事を行なっているだけです」
ゆるゆると首を振るクリフトに、アリーナはそんなことないわ!とクリフトの腕を取り、あれやこれやと言い聞かせる。

「なぁ、俺の飯はー?・・・・・・・・・・・」
そう呟くソアラを無視して、たちまち二人きりの世界を創りだしたクリフトとアリーナは、蕩けるように幸せそうな顔をして語り合い出し、彼の気力を根こそぎ削ぐのだった。

だがそれによりソアラへの怒りを解消したアリーナは、暫くののち『食事を持ってくるわね』と上機嫌で部屋を後にし、クリフトもソアラに何もしなかったので、それはそれでよかったのかも知れない。ソアラはこれから2日後に無事に全快した。

風邪を引けば桶屋が儲かるというが、この場合儲かったのは果たして誰であったのだろう?
「んなこと知るかぃ!!」

ごもっとも。

おしまい
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