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The light stuff  あかるいひとたち

冒険中の話

神、空にしろしめす なべて世はこともなし

☆5,000hit記念リクエスト作品 リクエスト頂きましたyg様 本当にありがとうございました☆

この地を拠点としての探索と情報収集を終えた勇者ソアラ一行。明日の出発を前にして本日は休暇となっていた。そんな中で、買い出し当番であったソアラとクリフトは、最後の物資の補給をしてくると言ったまま、いつまで経っても宿に戻ってこなかった。

「遅いわ。もう何してるのかしら!」
もう先ほどからずっと、壁の時計と睨めっこばかりしているアリーナ。二人の買い出しにアリーナもついて行きたがったのだが、何かと疎かにされている勉強の遅れを教育係でもあるブライに指摘されてしまい、先ほどまで渋々ながら経済やら歴史やらの講義を受けていたのだった。だからもうてっきり帰ってきているものだと思った二人が、未だ戻らない事を知ったアリーナの機嫌は悪い。同部屋のマーニャとミネアの姉妹は、アリーナのこの様子にやれやれと思いつつも、暖かい眼差しを向ける。

これまで王族を毛嫌いしてきたマーニャであったが、この溌溂とした、破天荒なお姫様と出会いはその認識を改めるのには十分だった。ミネアもアリーナの純粋さにすぐに好感を覚えたらしく、以来二人はアリーナを妹として可愛がり、何かと世話を焼いてやるようになった。アリーナもまたこれを喜び、二人を本当の姉のように慕っているのである。そんなアリーナの目下の悩みは、幼馴染で従者として同行している神官クリフトとの関係だった。

以前よりクリフトには漠然とした想いを抱いていたアリーナだったが、それはこの旅で更に確実なものへと変わった。そうして恋を知った乙女は、想い人の恋人になりたいと願い努力するのだが、普段はやたら優秀なくせに自身と姫の事になると、思考が働かなくなるクリフトには、それが全く通じてくれない。しかもいつでも彼の隣にはソアラがいて邪魔をする(とアリーナだけが思い込んでいる)ので、面白いはずがない。そう、アリーナは極度のヤキモチ焼きだった。子供じみているとわかっていても、クリフトの隣にいるのが自分でないことを許せないのだ。だからアリーナはソアラに突っかかることも多い。

これはソアラからしてみれば『はた迷惑』以外の何物でもなかった。クリフトも大概だが、アリーナもまた好意に対して非常に鈍感で、その言動が及ぼす影響を何一つ理解していないからだ。クリフトがアリーナをどんなに大事に思い、命がけで愛していることに気がつかないのはアリーナ本人のみ。クリフトは隠しているつもりでもその想いは周囲にはとうにバレバレである。なのにソアラに射殺すような冷たい視線を向けて、重圧をかけるクリフトの様子には、彼女は全然気がつかないのだ。

ソアラは常々、アリーナに対する恋愛感情など微塵もなくむしろ弟分のような思いである、クリフトに対しても初めて出来た同年代の親友として普通に接しているだけだ、と主張しているのにもかかわらず、双方からこのような言われもなく理不尽極まりない嫉妬を受け続けていた。身の保全のためにも早く二人を何とかしようと試みるが、やっぱりそれも上手くいかない。それはおこちゃまで、空気を読まないソアラ本人のせいでもあるが、学習能力の低い彼はそこをまったくわかっていなかったりもする。

「ねぇ、やっぱり遅すぎると思わない?まさか何かあったのかな?!」
「ないない。ソアラがあちこち寄り道してるのに、クリフトもなんやかんや言いながら律儀に付き合ってあげてるだけだって」
「あの子はただ、町ってものが珍しいだけよ。大丈夫よ、きっとそのうちに戻ってくるから」
「はぅぅ・・・。でもぉ・・・・」
そう姉妹に諭されても、やはりアリーナの顔は曇ったままだ。ソアラを(一方的に)ライバル視しているアリーナは、自分のいない所で二人きりになられることに対する不安をありありと見せていた。

(自分はこんなヤキモチ焼くのに、なんで相手のには気がつかないかしらねー。このコってば)
(目に見えるものを追うのに必死すぎているのよ。そこがアリーナらしいのだけれど)
こそこそと会話する姉妹に気づかないアリーナは、やおら椅子から立ち上がると外出の支度をし始めた。

「ちょっと、アリーナドコ行く気よ?」
「クリフトを探しに行くわ。こんな風にただ待つのなんて、やっぱりわたし嫌なんだもの!」
「待った!アタシも止めたりしたくないケド、一人で外出なんてのがおじーちゃん知れたら、アンタ一体どうなるかわかってんの?」
「そうよ。私だってこんなこと言いたくはないけれど、老師様の手前もあります。あなた一人を町になんて行かせられません」
「お願いよ、行かせて!!だって、だって心配なんだもの」
お城育ちで、世間知らずな姫であるアリーナ一人を外に出したら、おそらくソアラの二の舞になることは容易に想像がつくが、敢えてそれは語らずにブライを引き合いにだすマーニャとミネア。

「だからね、アタシ達も行くから」「え?」
「ええ。丁度おやつの時間も近いことですし、市場の近くのカフェでスイーツでも食べましょうか?」
「美味しいもの食べた後で、あの二人取っ捕まえて帰ればいいのよ。んじゃ支度しよっか、ミネア」
「そういうことだから、もう少しだけ待っててくれるかしら?」
「マーニャ!ミネア!ありがとう。二人ともやっぱり大好きよ!!!」
そしてとにかく妹には甘い二人であった。



カフェに向かう道筋には、数件の露店が出ていた。そのうちの一軒になぜか黒山の人だかりが出来ている。しかも集まっているのは若い娘から相応の年齢の主婦まで女性ばかり。これに一瞬ガーデンブルクを思い出すアリーナ達。
「凄!ちょっとこれじゃ、この道通れないじゃない。いい迷惑ねー」
「昨日までは特に何もなかったはずだけれど、珍しいものでも売り出しているのかしら?」
「でも、みんなが持っているのって普通のフルーツとかお野菜みたいよ?そんなに美味しいのかしら?」
口々に疑問を言いながら、何とかそこを通りすぎようとした三人に、よく聞き慣れた声が飛び込んできた。

「ほい、あんがと!またよろしくなー。あ?それはな、えっと・・・いくらだったっけかクリフト?」
「そちらでしたら2つあわせて28ゴールドになります。いかがですか?」
「も、勿論買いますわ!」
「ねぇ、こちらはいくらになるの?それから、あなた達ってこのお仕事何時に終わりますの?よろしかったらその後で・・・・」
「ちょっと、何言ってんの!!この子達にはあたしが先に声かけてんだからね」「何よ引っ込んでなさいよ」「そっちこそ!!」

「やめろぃ!商品痛むだろが!じゃなくって、えぇと、わりいけど買ったんならさ、もう帰ってくれないか?ただでさえ人多いんだし。これから買い物する人にも迷惑になるからさ。俺はそんなん嫌なんだ。な、頼むよ!」
「その通りですね。大変申し訳ありませんが、お買い物が終わりましたら速やかに場所を空けていただけませんでしょうか。私からもお願いいたします」
「は、はい」「ああん、ごめんなさぁい」「あの微笑み・・・すごい素敵。まるで天使様みたい」「あの子も口悪いけど、なんだかそれって可愛くなーい?」「そうかもー」「ね、蒼い髪の人って背も高くない?格好良すぎるかも!」「あたしはあっちの翠の髪の子のがいい」
と、次々に湧き上がる黄色い声。黒山を掻き分け掻き分け、三人が見た混雑している露店の売り子とは、出けたまま戻って来なかったソアラとクリフトであった。

「な、何やってんのよあいつら」
さすがのマーニャも、ちょっと吃驚。
「売り子でしょう」
「ミネア・・・・・」
こちらは姉とは違い、さして驚いた様子もないミネア。
「・・・・・・・・やだぁ・・・・・・・・」
姉妹と違い小柄なアリーナは、人と人の隙間を縫うようにして暫く必死にクリフトを見つめていたが、ふい、と目を逸らすとふらふら歩き出した。その間もソアラとクリフトは、三人を見つける余裕もなく接客を続けている。

「アリーナ?!待って!」
「だめよ!一人で動いたら」
この様子にすぐ気がついた姉妹は、アリーナを確保すると一旦、カフェに腰を落ち着けることにした。店の一番奥、通りの雑音が聞こえないような静かな場所にて姉妹はティーセットを頼むと、さっきから黙ってしまっているアリーナに向かい、力づけるために色々と話しかける。
「ホラ、アリーナの好きな苺のミルフィーユ!コレすごく美味そうじゃない、はやく食べなさい?美味しいもの食べたら嫌なことなんて、結構パーっと忘れちゃえるもんよ」
「ハーブティには、心を落ち着かせる効果もあるわ。確かに良い気持ちはしなかったとおもうけど、何か理由があるでしょうし、あまり思いつめて考えないほうがいいわよ」
「うん・・・・・」

それはアリーナにだってよくわかっている。先ほどの露店の片隅では、腰の曲がった老人が腰をさすりながら小さく座っていた。クリフトは昔から人の為に動くことに、何の躊躇もためらいも見せない。老人の様子を見かねて手伝いを申し出たか、もしくはトラブルメイカーでもあるソアラが老人に何かしでかしたか、いずれにしてもあの状況はそういった理由からに違いないとの推測は出来た。

けれど、理屈ではわかっていても繊細な乙女の心は悲鳴をあげた。自分の大好きな人が知らない女性達に囲まれながら、素敵な笑顔をみせていた。なぜかはわからないけれど、心をぎゅっと掴まれたような痛みが走った。そんな彼は見たくない、知りたくない!と本当に思った。そして今は同時に、そんなクリフトに対する怒りが段々とこみ上げてくる。

(考えたけど、やっぱり何もあんな微笑むことなんかないじゃない!しかも女の子に囲まれすぎよっ!おまけに素敵とか、格好良いとかいわれちゃって!!そんなのわたしが一番よくわかってるんだからねっ!!昔もサランにファンクラブあるとかって聞いたことあったし、もてるって話はお城の女官の噂話にもあったわよっ!!あったけど、何よあれはっ!!はぅぅぅ、クリフトの莫迦っ!!莫迦、莫迦!!!!わたしにだけ、あんな顔をしてて欲しいのにっ!!!)

ぐさぐさとフォークでつつかれっぱなしのミルフィーユは、原型を留めていない。が、それを注意するのも最早憚られた。それほどにアリーナのジェラシーストームは凄まじい。こうなってしまうと落ち着くのをひたすらに待つしかないのだ。それがこれまでの経験から学んだアリーナへの対処方法であった。姉妹はもう黙って、自分達もお茶を啜ることにした。

そうしてようやくアリーナの気持ちも落ち着いた頃には、その露店は店じまいをしていて彼らの姿はそこには無かった。潮を引くようにあれだけいた人々もいなくなっていた。今日はとにかくこれ以上はこの件には触れないようにしよう、と姉妹は思いながらアリーナを連れて宿へと引き返した。


「あー!何処行ってたんだよ。俺らすげー待ってたんだぞ!!」
ロビーで、ソアラとクリフトがそんな三人を待ちかまえていた。
(それはコッチのセリフよ!このお気楽勇者!!)
と心の中で突っ込む姉妹。平静を装うアリーナもちょっとぎこちない笑みを浮かべていた。
「姫様?どうかなされましたか。もしやご気分が悪いのですか?」
「う、ううん。なんでもないのよ?!」
「それよかアンタ達、アタシらに何か用なの?」
「待った!なんかケーキの匂いがするっ!!ズリーぞお前ら、俺抜きで喰ってきやがったな!!」
「ソアラっ!そんなことは後にして下さい。それよりも早く、姫様達に渡すものがあるでしょう!!」
つい脱線しそうになる会話にクリフトが釘を刺す。

「あ、そだったな」
ごそごそとソアラが後ろにあった袋から取り出したのは、なんとも美味しそうな、様々なジャムの詰め合わせ。
「どうしたのよコレ?」
「こんなに綺麗な色のもの、わたしお城でも見たことないわ!」
「私もここまでなのは、はじめてよ。色の保存ってとても難しいはずなのだけど」
その色の鮮やかさに、目を奪われる三人。それは自然そのものの色でありながら、艶をもち、いかにも食欲をそそるようなものであった。

「へへへ、スゲーだろ?いや実はさ、俺らさっきまで、露天商のじーさんの手伝いしててよぉ。帰りも家までじーさん送ってたら、お礼にってんで一杯色々貰ったんだ。これはその中のもんなんだけどよ、なんかそこん家の秘密のレシピとかいうやつでさ、その色だせるのはここしかなくって、知る人ぞ知るご当地名物ってやつらしい」
「姫様はジャムは苺より杏がお好きでしたよね?ですので姫様に差し上げようかと思いまして。ああ、お二人も杏以外のものでしたら、どうぞお好きなものを持って行って下さいね」
「クリフト覚えててくれたんだ、わたしの好きなもの」
「勿論、それは当たり前ですよ」
「ありがとう。凄く嬉しいわ!」
先程まで感じていた重苦しい気持ちが、この一瞬で霧散する。笑顔を見せるアリーナに、姉妹も心底ほっとしたのだが・・・・。

この3分後には、2つの棺桶が完成していた。原因はやっぱりソアラのいらん一言。

『そういえばさ、じーさんとこの孫娘がよ、これまたすっげ可愛かったんだぜぃ。なークリフト?』
『ええ、とてもお可愛らしい方でしたね』
『クリフトのこと気に入っちゃったみてーでよぉ、大変だったんだ!』

これを聞いたアリーナは、一瞬にして二人の息の根を止めた。実に素晴らしい電光石火の早技であったと姉妹は語る。止める間もなかったのも事実だが、ソアラとクリフトのこの不用意な発言には、姉妹も腹を立てた為、かばいなどは勿論しなかったはずである。

さらにこの10分後、噂の孫娘(7才)がソアラの忘れ物を届けにきたことで、ようやく彼らは蘇生を許されたのであった。

                                おしまい
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